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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和59年(わ)244号 判決 1984年11月26日

主文

被告人を懲役一年に処する。

未決勾留日数中二〇日を右の刑に算入する。

この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一飯塚市菰田東二丁目三番三六号所在の棟続きの木造瓦葺平屋建(床面積約一四二平方メートル)の一部である平田俊一所有家屋(床面積約二八平方メートル)に居住していたものであるところ、昭和五九年七月一九日午後三時ころ、右自宅台所土間において、内径3.7センチメートル、長さ約七〇センチメートルの鉄製筒の内部に外径0.95センチメートル、長さ約六〇センチメートルの鉄パイプを入れて底部をコンクリートで塞ぎ、鉄製筒と右鉄パイプの空間部分にがん具煙火爆竹の爆薬約四四〇グラムを詰め込み、手製パイプ爆弾を製造中、右鉄製筒の底部から右爆薬が土間上に漏出し、同鉄製筒内に約二二〇グラムの爆薬が残存したが、このような場合、同爆薬は衝撃摩擦により爆発の危険があつたのであるから、同鉄製筒内に注水するなどして爆発を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、残存した爆薬を取り出そうとして、別個の鉄パイプで右手製パイプ爆弾の内側などを十数回叩く、突くなどした重大な過失により、その際の衝撃摩擦で右手製パイプ爆弾内の爆薬及び土間上に漏出した爆薬を爆発させ、よつて右家屋の台所の天井板、土壁などを破壊し(損害約一二八万六、〇〇〇円相当)、もつて右平田俊一所有の建造物を損壊し、

第二通商産業大臣の許可を受けた火薬類製造業者でなく、かつ、決定の除外事由がないのに、前記日時場所において、前記のとおり、鉄製筒内にがん具煙火の爆薬約四四〇グラムを詰め込み、火薬類である手製パイプ爆弾を製造し

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(適用法令)

判示第一の行為につき 刑法一一七条一項、一一七条の二

判示第二の行為につき 火薬類取締法四条、二条一項三号へ、五八条二号

刑種 判示第一の罪につき禁錮刑、同第二の罪につき懲役刑を選択

併合罪加重につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第二の罪の刑に加重)

未決勾留日数の算入につき 同法二一条

刑の執行猶予につき 同法二五条一項

訴訟費用の負担免除につき 刑訴法一八一条一項但書

(判示第二の罪の既遂時期について)

検察官の釈明により、判示第二の行為は、火薬類取締法二条一項三号(ヘ)に規定する「爆薬を使用した火工品」である「手製パイプ爆弾」を「製造した」ものとして起訴されたものであることが明らかであるところ、前掲各証拠によれば、被告人は、判示の手製パイプ爆弾一個を「製造中」に、過失によりこれを爆発させたものであり、右爆弾は未だ完成していなかつたものであることが認められるから、判示第二の罪の既遂時期について検討する必要がある。

ところで、火薬類取締法四条にいう「製造」とは、原・材料に人工を加えて異なつた物をつくることを意味するものであると解されるが、同法による火薬類等の製造の規制目的が火薬類による災害を防止し、公共の安全を確保することにある(同法一条)ことに鑑みると、同法二条一項三号に該当する火工品についての同法四条違反の罪は、当該火工品の全ての製造工程が完了してその形態が完全に備わるまでに至つていることまでも必要とするものではなく、それが公共の安全を害するに足りる爆発機能を有し、外形上当該火工品としての一応の形態を有するまでに至つたときに既遂に達するものと解するのが相当である。

そこで、これを本件についてみると、前掲各証拠によれば、被告人は、本件パイプ爆弾を造るため、予め準備してあつた外径0.95センチメートル、長さ約六〇センチメートルの鉄パイプの両端に、ガラスを取り除いた豆電球と爆薬を詰め込んだプラスチック容器を取りつけて固定したうえ両方の豆電球を電線で接続し(更に一方の豆電球からは導火線に接続するための電線を伸ばし)、これを内径3.7センチメートル、長さ約七〇センチメートルの鉄パイプの中に入れて一方の端をコンクリートモルタルで密閉して固定し、他方の端を半分だけコンクリートモルタルで固定し、次いで、右半分だけ固定してある先端部分の空間から前記両パイプの透き間に、ほとんどいつぱいにがん具煙火爆竹から取り出して集めた爆薬約四八〇グラムのうち約四四〇グラムを詰め込んだあと、判示のとおり爆発させるに至つたこと、もし爆薬が漏出せず、爆発していなかつたならば、その後の作業としては、前記半分だけ固定してある先端部分の空間をコンクリートモルタルで密閉したあと、爆発時の威力を高めるため、このパイプ爆弾本体を内径約七センチメートル、長さ約八〇センチメートルの鉄パイプの中に入れて一方の端にコンクリートモルタルを詰めて固定し、爆弾本体と右鉄パイプとの空間にパチンコ玉を詰めたうえ他方の端をコンクリートモルタルを詰めて固定し、導火線をつなげば完了するものであつたことが認められる。

そうすると、被告人が判示のとおり爆発させるに至つた段階においては、本件パイプ爆弾の製造工程は概ね終了し、外形上パイプ爆弾としての一応の形態を有するに至つており、その後の作業は爆発時の威力を高めるためのものが大部分であつたと認められ、かつ右の段階において公共の安全を害するに足りる爆発機能を有していたことが明らかであるから、被告人の判示第二の行為は同法四条違反罪として既遂に達していたものと認めるのが相当である。

(量刑理由)

本件犯行は、人家密集地で多量の爆薬を用いてパイプ爆弾を製造した危険極まりない行為であり、右製造の際誤つてこれを爆発させ、借家を損壊したものであるのみならず、被告人は本件犯行前にも三回にわたり手製の爆弾を造つて山中で爆発実験をしていたものであつて、犯情は悪質であるといわなければならない。

しかし、被告人は、他人に危害を加えたり、過激な行動に用いるために本件爆弾を製造したものではなく、家族を含む対人関係に悩み、将来を絶望して何度か自殺を決意したが果せなかつたため、かつて自衛隊員であつたころの砲弾についての受講や実射時の経験を基に、自殺の用に供するため本件爆弾を製造したものであること、本件爆弾の爆発により被告人自身が入院加療七四日間を要する全身火傷、左前腕・右下腿挫滅創、角膜・結膜損傷等の傷害を負つたものであること、判示第一の建物の所有者との間で示談が成立していること、被告人には全く前科がないこと、本件につき十分反省悔悟していると認められること等の諸般の情状を考慮すると、刑の執行を猶予するのが相当であると認められる。

(喜久本朝正)

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